第73回NHK杯 船江六段vs里見女流五冠の感想

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4月30日に第73回NHK杯テレビ将棋トーナメント1回戦第5局 船江恒平六段vs里見香奈女流五冠が放送されました。
船江恒平六段(36歳)
順位戦 C級1組
竜王戦 4組
通算成績 297勝182敗(勝率0.6200)

里見香奈女流五冠(31歳)
タイトル 白玲・清麗・女流王座・女流王位・倉敷藤花
通算成績 47勝58敗(勝率0.4476) ※男性公式戦

通算成績だけ見ると船江六段優勢ですが、里見女流五冠の方は高校生の頃の成績も含まれており、奨励会退会後は5割を超えているので、船江六段有利くらいでしょうか。。

しかし、船江六段の通算成績も素晴らしいのですが、里見女流五冠の成績もすごい。奨励会退会後の成績ならば普通にプロレベル。

さて、本局は船江六段が先手で、里見女流は得意のゴキゲン中飛車。里見女流五冠といえば中飛車と言うくらい、中飛車を指す確率が最も高い棋士。その里見女流を相手に船江六段が用意していた戦法はゴキゲン破りの定番・超速▲37銀。奇抜なことをやらず、正攻法で来たという感じ。

超速▲37銀
超速▲37銀

それに対して里見女流五冠は銀対抗形と言われる形で応じてましたが、里見女流五冠にとっては得意の形。23手までは定跡手順ともいえる手順ですいすいと進んでいたのですが、里見女流五冠の24手▲52金左が新工夫。

その金を守りではなく攻めに使うという新しい趣向で、盤上は対抗形では珍しい6筋をめぐる攻防となったのですが、中盤を制していたのは船江六段。

里見女流五冠の56手△31角という別の地点から突破口を切り開こうと準備した手に対して、テレビ画面に表示されているAI先生はややご立腹で、船江六段持ち60%ほどになってました。

それ以降の船江六段の対応は的確で、里見女流五冠の飛車・角は抑え込まれたまま局面は展開され、素人目にも振り飛車側の芳しくない状況に見えたのも事実。

終盤戦は里見女流五冠も相手の飛車のコビンに角を打つ準王手飛車(飛車を逃げると玉が素抜かれる)で形勢を盛り返していましたが、すぐに船江六段は73手▲73金打と王手をかけて、いよいよ相手の本陣をめがけて総攻撃。盤上は里見女流五冠の後手陣だけが終盤戦。

しかしその時、画面に表示されているAI先生の判定は70%になったかと思いきや着手されないうちに50%に戻ったりと、どちらを優勢にするのか優柔不断なご様子。

これはひょっとするかもという雰囲気も漂い始め、いよいよ観る人を盤上に釘付けにする白熱の最終盤戦。

船江六段の89手▲72金。詰めろでいよいよ里見女流五冠の後手玉も寄り筋かと思いきや。

最終盤の絶体絶命の大ピンチの局面を迎え、出雲のイナズマが指したのは90手△71銀(打)!

この手を見て大盤の西川和宏七段は「この△71銀はなかなか打てないですね」「なるほど、いや△71銀が受けの好手だったかもしれないですね」「△71銀の受けがいい手でしたねえ」としきりに激賞。

そして、その一手に対して画面に表示されていたAI先生の判決は、里見女流五冠持ち98%!

△71銀で相手の攻めを遅らせて一手を稼ぐと、以下はイナズマの寄せで100手で里見女流五冠の逆転勝ち。対局後、笑顔の里見女流五冠が印象的でした。男性プロを相手に女性プロが逆転勝ちするなんて、本当に凄いものを見せて頂きました。

女流棋士がNHK杯で男性棋士に勝ったのは2019年以来。その時に勝ったのも里見女流五冠でした。(相手は高崎七段で解説は羽生九段)

里見女流五冠自身は、NHK杯戦ではこれで2勝3敗。去年も今泉五段を相手に優勢な将棋を惜敗だったわけで、男性プロを相手に普通に互角に戦っています。個人的にはベスト8を突破するほどの快進撃を期待していたりもするのですが、里見女流五冠のブロックには藤井六冠がいらっしゃいますね。(ベスト8になるのが優勝するのと同じくらい厳しいブロック)

里見女流五冠の次の相手は、久保九段(さばきのアーティスト)又は田村七段(早指しの雄)で、どちらが上がって来ても強いのですが、どうなるのか、楽しみが一つ増えました。なお、久保九段vs田村七段は次の日曜日に放送される予定。

◆水匠5の形勢評価グラフ
第73回NHK杯1回戦第5局 形勢評価グラフ
赤いラインは90手△71銀打
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コメント
  • 2023/05/01 20:54
    終盤入口までは船江六段の指し手が的確で、あのまま振り飛車の飛車角を抑え込んで終わるのかのような雰囲気でしたが、船江六段が寄せに来た中での里見女流五冠の攻防の見極め、上には書きませんでしたけど82手△65金打とかも終わってみると絶妙でしたよね。ツイッターなどでも対局後は里見女流五冠の勝利を称える声がたくさん流れてましたよ。
  • 2023/05/01 14:38
    お疲れ様です。
    船江六段は振り飛車の飛車角の捌きを抑えつつ、手厚い玉頭攻めで、終盤は先手に寄せがありそうに見えましたが、難しい形成だったのですね。確かにAI判定も互角が続いていました。

    書かれていた通り、終盤の△7一銀は凄かったですね。受けながら手を稼ぐ妙手でした。里見女流五冠はNHK杯戦でこれまでも惜しい負けもあり、十分に力を発揮できずに残念に思っていましたが、本局で晴らしてくれた気がしました。
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